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2023.06.29

第28回FD Café「大学教育DXの現状と今後の展望」を開催しました (6/9)

 6月9日(金)第28回FD Café「大学教育DXの現状と今後の展望」をα棟4F 多目的ホールにて開催いたしました。今回のFD Caféは、慶應義塾大学大学院特任教授 井上雅裕先生をお招きして、「大学教育のDX」について話題提供を頂き、「対面とオンラインを複合する教育とブレンド型の国際交流」、「マイクロクレデンシャルとデジタルバッジ」のトピックスについて講演いただきました。対面とオンラインで開催し、教員47名 職員22名 他大学から13名の計82名が参加しました。

「大学教育のDX」

         井上 雅裕 先生
 初めに、井上教授から人材育成の目標について説明がありました。その中で「分野横断の問題発見・課題解決や価値を創造する能力」、「異文化理解力や言語・コミュニケーションスキル・マネジメント・リーダーシップ等の能力」が求められており、「異なる分野の知識やスキルを得るリスキリングや自己の専門領域の能力を高めるアップスキリングが必要」と述べられました。また、大学教育のデジタルトランスフォーメーションの段階について、「デジタライゼーション」ならびに「デジタルトランスフォーメーション」に着目し、それぞれの特徴についてご紹介がありました。
 「デジタライゼーション」とは、デジタル技術と情報を活用し、新しい価値を生み出すもので、具体的には学生一人ひとりの多様性・進度に合わせた学習システムや、学習プロセスのデータによる把握・分析による学習の改善が挙げられました。また、VR・ARを用いて危険が伴う実験や実習を体験することも含まれます。一方「デジタルトランスフォーメーション」とは、社会のニーズを基に、デジタル技術を活用し、教育を提供するモデルを変革するとともに、組織・プロセスを変革するもので、リカレント教育・大学院教育において一つの大学に通学するという概念が変わることや、大学間、国際、産学連携でのオンラインによる新しい教育モデルの創造が挙げられました。
 また、工学・高等教育のトレンドならびにトピックとして「ブレンド型/ハイブリッド型の授業モデル」、「マイクロクレデンシャル」への注目が高まっていると述べられました。
「対面とオンラインを複合する教育とブレンド型の国際交流」
 次に、対面とオンラインの良いところを尊重し、より良い方法で組み合わせる「ブレンド型教育」についてご紹介がありました。前提として対面とオンラインを複合する方法は2つあり、「ブレンド型学習(Blended Learning)」と「ハイブリッド教室(Hybrid Classroom)」に分類されます。
 ブレンド型学習は知識習得をe-Learningを含むオンデマンド学習で行い、知識の活用やディスカションを対面で行います。目的として、自分の習熟度に合わせて学習できるというオンデマンド学習の利点と、学習意欲の維持や学生間のコミュニケーションを図る対面の学習の良い面を組み合わせることで、学修成果の向上に価値を見出します。
 ハイブリッド教室は、対面の学生とオンラインの学生が同時に授業を受ける形態で、学生は対面教室かオンライン教室のどちらか一方の方法で参加するものです。海外の学生や社会人など対面教室に来ることが困難な学生、感染防止対策により人数を制限する際に定員数を超過した学生、基礎疾患のある学生等、対面教室に来ることができない学生に学習機会を保証することを目的として価値を見出します。
 
今後「ブレンド型学習」と「ハイブリッド教室」それぞれの授業形態を組み合わせていく場合の教員の役割について、オンラインに関する部分ではコンテンツの作成や選択、対面授業においてはファシリテーションが中心になると述べられました。
 また、ブレンド型の国際交流について、グローバルPBL(対面とオンライン)ならびにオンライン国際協働学習(COIL)を含めた説明がありました。井上教授はグローバルPBLにおける協同学習について、現地で対面することは必須であり、実際に現地の食事、自然、街等で異文化体験を行い、手や足も動かしての問題発見、解決、試作をすることの重要性について述べられました。一方、現地の対面学習の経験を活かしてオンライン国際協働学習を行い、国際協働バーチャルチーム、オンライン国際協働開発・設計の実践、オンラインでの異文化間コミュニケーションスキルの向上等、継続的な国際協働を進めることが重要と述べられました。併せて、国際連携学習では様々な機関の学生が参加するため、共通して一定程度の知識を習得するためにオンデマンド授業を活用することが有効であると述べられました。
「マイクロクレデンシャルとデジタルバッジ」
 次に、マイクロクレデンシャルとデジタルバッジについてご紹介がありました。マイクロクレデンシャルとは、教育プログラム自体と教育プログラムの学修歴の証明という2つの側面を持ち、UNESCOが以下のように定義しています。
 ①学習者が知っていること、理解していること、またはできることを証明する、対象が重点化された学修成果の記録である。
 ②明確に定義された基準に基づいたアセスメントを含み、信頼できる提供者によって授与される。
 ③単独で価値を持ち、さらに他のマイクロクレデンシャルまたはマクロクレデンシャルの一部を構成したり、それらを補完したりすることができる(既習の学習の認定も含める)。
 ④関連する質保証が求める基準を満たす。
 具体的には、学習内容をより詳細な単位に分け個別に認証する方法のことで、特定の領域を学んだ学修成果の記録について認定を受ける、新しい教育の仕組みになると述べられました。一方で、課題として以下の内容が挙げられました。
 ①マイクロクレデンシャルの恩恵をあらゆるグループの学習者が享受できるようにすること。(包摂性)
 ②雇用者がマイクロクレデンシャルの価値と質を尊重すること。
 ③マイクロクレデンシャルの広範な理解と承認のための枠組みを構築すること。(国内の枠組み、国際的枠組み)
 ④個人のニーズと職業上の目的に適したマイクロクレデンシャルを選ぶのに必要な情報を学習者が確実に入手できるようにすること。(データベースや比較サイト)
 ⑤マイクロクレデンシャルの可読性、可搬性、通用性を高めること。(相互比較できる、取得した機関や国以外でも認められる)枠組み(フレームワーク)やデータベースの構築。
 また、マイクロクレデンシャルとデジタルバッジの関係についてご紹介がありました。マイクロクレデンシャルが各国や地域等で定める教育の新しい仕組みであるのに対して、デジタルバッジは国際的な情報技術団体等が策定したデジタル証明の技術仕様であり、教育に限定されず広く使われる技術ですが、混同されている場合があるので注意が必要であると述べられました。さらに、マイクロクレデンシャルとして認められるもの、認められないものについて説明がありました。マイクロクレデンシャルとして認められるものは、「高等教育機関、職業教育機関が行う学修成果の評価が行われた教育プログラムや科目の一部」、「民間研修機関、学協会、専門家団体、企業等が行う学修成果の評価が行われた講座、研修」、「民間研修機関、学協会、専門家団体、企業等が行う学修成果の評価が行われた講座、研修」であり、認められないものは、「学修成果の評価が行われない学習または講座」、「学修成果の評価が行われずに、参加するだけで取得できるデジタルバッジ等の証明書」が挙げられました。
 質疑応答では、「ブレンド学習について、オンデマンド学習と対面でのディスカッションの組み合わせがスタンダードだと思いますが、その他にもバリエーションがありますか?」との質問があり、井上教授から、「ブレンド学習の反転授業がそれにあたります。例えば実験については、先に基礎的な実験を対面で実施した後に、規模の大きい実験をシミュレーターで行う等、逆になる場合もあります。このように、学習内容に応じて様々な形態が考えられると思います。」と回答がありました。別の質問では「本学の学生はDXに関する知識やスキルレベルに差があると感じています。そこで知識等に差がある学生達に興味を失わせることなくDX教育の基準を設定するにはどうすればよいでしょうか?」との質問があり、井上教授から、「文部科学省にて数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度が開始されています。その中で、基礎的な内容を修得する教育プログラムをリテラシーレベルとして設定しているので、参考にされるのがよいと考えます。」と回答がありました。
 

           前田副学長
 今回の講演を受けて、情報工学部長藤岡教授から「新型コロナウイルスが蔓延したことで、教職員が学生の学びを止めないよう一生懸命考え、取り組むきっかけなったと考えています。今後、この経験を活かしてより良いDX環境を整備するにあたり、貴重なお話を聴くことができました。」と述べられました。
 最後に前田副学長から、井上教授と参加者への謝辞が述べられました。前田副学長は「大学教育のDXについて手探りの部分があったが、今回の講演でやるべきことが見えてきました。コロナ渦の前に戻らないことは当然として、さらに学習者本位の学習環境の実現に注力していく考えです。ブレンド型学習については、本学はアクティブラーニングの導入で培ってきた下地があるので、今後は大学間連携、産学官連携、国際連携に繋げていきたいです。一方で、マイクロクレデンシャルをはじめ、まだ着手できていないこともあるため、できることから始めていきたいと思います。」と述べられました。

 実施後のアンケートでは、「国外におけるDXの動向やマイクロクレデンシャルという概念を通して、今後のDXによる教育の変化の流れをイメージすることができたと思います。」、「コロナ前にただ戻るだけでいいのか?という問題提起に強く共感しました。対面にただ戻すだけでなくハイブリッド授業等取り入れるなど柔軟に対応できたらいいと思います。」、「コロナ禍を通して学習者本位の教育の在り方を模索する中、デジタル活用で時代フェーズが変化し、危機のきっかけを与えられた。海外での取り組みのご紹介もあり、今後、どのような事業に注力すべきか、何に資源を投下すべきかなど考えさせられた。」とのコメントがありました。
※当日の動画はStream(学内専用)こちらをご覧ください。
https://web.microsoftstream.com/video/32a8279b-425c-478a-909f-3a4ec02188af

 
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